黒木碁石店の碁石づくり蛤碁石製造の舞台裏

蛤碁石の歴史

『世界で唯一』の『蛤碁石』の産地 『宮崎県日向市』

 碁石は昔、木や石から作られていました。その後、宝石からつくられ、貝殻を原料にし始めたのは、明治になってからのことです。当時は愛知県三河の桑名の蛤(はまぐり)を原料として大阪で製造が盛んになり、日本一の碁石とされていました。ところが、年々原料が減少しはじめたころのこと、大阪の碁石屋の主人、石橋小七郎(いしばしこひちろう)は、越中富山の薬売りから日向(現在の日向市)に行商に来た際、珍しい貝が浜に打ち上げられていたと聞かされ、番頭の森元次郎(もりもとじろう)を日向に遣(つか)わせました。元次郎がお倉ヶ浜に来てみると、これまで見たこともない見事な蛤の貝殻が浜一面に打ち上げられていました。元次郎はさっそく貝殻採取にかかり、毎日を夢中に過ごしたそうです。一方大阪の石橋小七郎は、森元次郎から送られてくる貝殻の量が日ごとに増えてくるので、原料を同業者に販売するようにまでなりました。小七郎によって蛤碁石は世に出ましたが、その碁石は名実ともに大阪の名産となり、またたく間に最高級品の名をほしいままにしました。

大阪碁石製造所
大阪碁石製造所
大阪碁石製造所
大阪碁石製造所

 『日向蛤碁石』は、『原田 清吉』から始まった。

 原田清吉は、「日向の蛤は我が郷里日向で碁石に仕上げたい」という思いを持って、大阪で碁石職人になるため修行をしました。そして、碁石製造の技を会得した清吉は、心躍らせて郷里に帰り、現在の日向市財光寺において、1908年(明治41年)に日向蛤碁石の製造にかかったのでした。
このことが始まりで、日向市は一大蛤碁石の生産地となりました。昭和20年頃には、全国の碁石生産量の9割を占めるようになった日向市。その後、大阪での蛤碁石の生産が終了し、現在では、日向市は日本唯一の蛤碁石の生産地となりました。

原田清吉
原田清吉

明治時代後半から大正時代、蛤貝採取
明治時代後半から大正時代、蛤貝採取
明治時代後半から大正時代、蛤貝採取
明治時代後半から大正時代、蛤貝採取

 碁石の原料は、現在でも様々なものがあります。石・ガラス・プラスチック・宝石…その中でも、縞目の美しさ、打った時の音の響きは、蛤碁石に勝るものはありません。そして、蛤碁石の最高峰とされる『日向産蛤碁石』は、手作りの本物が持つ独特な味わい、見た目、打ち味、手触り、音の響き、全てを兼ね備えた碁石です。今では、資源が枯渇し、日向産蛤碁石は『幻の碁石』となりつつあります。

サンドポンプ船
サンドポンプ船
お倉ヶ浜
お倉ヶ浜

蛤碁石製造工程

1.くり抜き

 蛤の貝殻から碁石の原料をくり抜きます。その際、碁石になった時の縞目や厚さなど様々な点から、「貝殻のどの部分をどうくり抜けばいいか?」を見極める必要があります。
くり抜き

2.厚味選別

 くり抜いた原料は、厚味ごとに選別されます。碁石は厚いほど価値が上がるため、できるだけ削りすぎないように厚さの選別をします。原料の厚さを測定して、可能な限り厚い製品にします。

 薄い原料、厚い原料など様々な厚さの原料を厚味測定機で分類します。厚さがそろっていなければ削り不足、削りすぎが発生してしまい、効率が悪くなります。

厚味選別

3.面摺り

 厚味をそろえた原料を一つ一つ、片面ずつ碁石の形に削っていきます。貝殻は熱に弱いため、砥石に水をかけて冷やしながら碁石独特の曲面を作っていきます。この『面摺り』工程は非常に難しく、碁石職人の熟練の技と経験が不可欠です。黒木碁石店の碁石の『形』は、『マスターストーン』で厳格に決められていて、批准しているものだけが製品になります。

面摺り

4.サラシ

 白碁石は、『雪』のような無垢の白さが最高級とされています。しかし、白石の原料の貝殻は天然素材なので、真っ白というわけではありません。汚れや色シミなどを漂白して、できる限り白くします。漂白液に漬けた後天日に干す工程を碁石が白くなるまで繰り返します。天候や気温・湿度に左右されるため、1~2カ月かかります。

サラシ

5.樽磨き

 砥石で削った碁石の表面には、細かな凹凸があります。『樽磨き』工程は、この凹凸を研磨して表面をきれいにします。樽に32kgの碁石を入れて、研磨剤とともに合計6時間ゆっくりと廻します。碁石と碁石が擦れ合い、研磨剤の効果もあって碁石の表面の凹凸が少しずつ磨かれます。最後に少量の蠟で表面を薄くコーティングして完成です。

樽磨き

6.選別

 磨き上がった碁石は、1つ1つ人の目で選別を行います。選別は大きく分けて2つの選別をします。まずは品質選別。キズ、欠け、色、形、耳の厚さ等をチェックして不良品は外されます。次に、グレード選別。縞目、白さによって選別します。

 黒木碁石店では、世界一厳しいと自負する選別基準によって厳選された製品を、日本はもちろん世界中の囲碁愛好家の方々へ供給しています。

選別